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契約書はリーガルリスクマネジメントそのもの

 

「リーガルリスクマネジメント」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?

 

2020年にISO(国際標準化機構)が、「ISO31022:2020 リーガルリスクマネジメントのためのガイドライン」を発行してから、法務の界隈で取り上げられることが多くなりました。

 

これは、企業等の組織が、法律や権利に関わるリスク全般について、効率的かつ費用対効果に優れた管理を行うためのプロセスの枠組みを提供するものです。

そのプロセスは、リスクの特定→分析→評価→対応という流れです。

 

私は、これは、契約書作成のプロセスそのものだな、と思いました。

 

契約書を作成するときには、まず、契約の対象となる取引に関わる関係法令等を洗い出し、確認するところから始めます。

民法、商法はもちろん、建築請負なら建設業法、不動産賃貸借契約なら借地借家法、運送請負なら貨物自動車運送事業法や標準運送約款、下請取引なら下請法、消費者取引なら消費者契約法や特定商取引法、その他にも、個人情報保護法、景品表示法、製造物責任法、印紙税法など、かなり広範囲の確認作業が必要です。

 

これらの法令の規定をベースとして、強行規定に抵触しないように、有効要件にヌケモレがないように留意しつつ、取引条件や当事者の義務や責任、契約違反時の対処方法等を検討します。その際には、常に取引に伴うリスクを想定し、リスクヘッジの方法を考えます。

 

ですから、契約法務に携わっている人にとっては、ISO31022で示されているリーガルリスクマネジメントのプロセスは、それほど目新しいものとは感じられないのではないかと思いました。

契約法務担当者は、実務経験を積む中で、自然とこのようなプロセスを踏むようになっていると思います。契約書作成に限らず、新規事業のリーガルリスクや推進方法を検討する場合も同じでしょう。

 

ISO31022の意義は、実務に携わる人々や組織が、経験を積みながら、試行錯誤を繰り返し、ある程度時間を掛けて、自然に身に付けていたプロセスや方法を、文書で明示したこと、つまり、暗黙知を形式知に変換し、可視化したところにあると思います。

 

これは、例えば、新しく法務部門を立ち上げる企業や、法務の強化を図ろうとする企業にとっては、大変有用なモデルになるでしょう。また、とかくタコツボ化しがちで、経営層や他部門から煙たがられがちな法務部門への理解を促進したり、再評価してもらうきっかけになるかもしれません。