「鬼滅の刃」偽グッズで業者逮捕
これは、商標権や不正競争防止法といった知的財産権に関わる事件です。
愛知県警は7月28日、人気アニメ「鬼滅の刃」の作品を連想させるデザインの偽グッズを販売し、正規品と混同させたとして、不正競争防止法違反(混同惹起行為)の疑いで、横浜市のグッズ卸売業「レッドスパイス」の社長ら4人を逮捕しました。
その後、9月6日、名古屋地検は、「レッドスパイス」と、同社代表を不正競争防止法違反(混同惹起行為)の罪で起訴しました。
ともに逮捕された同社の元社長ら3人は「起訴するに十分な証拠収集に至らなかった」として不起訴処分になりました。
なお、逮捕容疑としては商標法違反もありましたが、商標法違反については、いずれも不起訴となっています。
報道によると、容疑者が扱っていた商品には、次のようなものがあったようです。
・「鬼退治」の文字や緑と黒の市松模様があしらわれた衣類など
・真っ黒なトースターに「滅」という文字だけ記した「鬼退治トースター 滅」という商品
・緑と黒の市松模様に「滅」という漢字1文字が書かれたタオルなど
・緑と黒の市松模様、ピンク色の麻の葉模様など、鬼滅の刃に登場するキャラクターの衣装の柄に似た模様を使ったバスタオルや、パーカなど
「鬼滅の刃」に関する商標登録の状況を調べてみたところ、集英社を権利者として、丸に「鬼滅の刃」のマーク、「鬼滅」、「柱」、「滅」、「鬼殺隊」、「悪鬼滅殺」、「全集中」の文字、「炭治郎」をはじめとした主要キャラクターの名前、胡蝶しのぶ、煉󠄁獄杏寿郎、冨岡義勇の衣装の柄などが登録されていました。
なお、主要キャラクターの衣装の柄のうち、炭治郎の緑と黒の市松模様、禰豆子のピンク地の麻の葉模様、善逸の黄色地に鱗模様は、いわゆる地模様であるとして一旦は特許庁から拒絶理由通知書が交付されましたが、出願人の集英社側から地模様ではなく図形商標であるとの趣旨の意見書が提出されており、未だ審査中の状態です。今後、登録される可能性が全くないとは言えません。
恐らく、容疑者側では、商品に「鬼滅の刃」の文字やキャラクターの絵柄などは使用せず、商標権や著作権を巧妙に避けていたのだろうと思われます。
そのため、商標法違反で立件することは困難であると判断されたのでしょう。著作権法違反で立件するのはなおさら難しいと思われます。
一方、不正競争防止法では、商標権だけではカバーできないような、幅広い範囲の不正行為に対し、その行為の規制や禁止、損害賠償の請求ができます。
不正競争防止法で訴えを起こすには、商品等の表示が商標登録されている必要はありません。
また、商標法では、登録された商品やサービスの種類と同一または類似の範囲に限り規制の対象になりますが、不正競争防止法では、その種類や範囲を問わず、商品等表示(商品やサービスを表すシンボルマーク等)の不正な利用が対象になります。
今回の起訴容疑は、不正競争防止法違反に該当する行為のうち、「周知な商品等表示の混同惹起行為」とされています。
不正競争防止法が定める「不正競争」には、営業秘密の不正取得など、様々な行為が含まれますが、「混同惹起行為」は同法第2条第1項で、「需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、・・・他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」と定められています。
また、「不正の目的をもって」、「混同惹起行為」を行った場合は刑事罰の対象になります。
同法第2条第2項には、「著名な商品等表示の冒用行為」が定められています。これは、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用・・・する行為」です。
他人の著名な商品等表示を「不正の利益を得る目的」で利用した場合は刑事罰の対象になります。
あくまでも私見ですが、今回の事件は「周知な商品等表示の混同惹起行為」よりも、「著名な商品等表示の冒用行為」に近いのではないかと思われます。但し、刑事事件としては、「著名性」の証明が難しいのかもしれませんが。
この事件で思うのは、
・知財に関する権利侵害への取締りが相当強化されていること
・商標権や著作権に関わるライセンス・ビジネスは、大変なパワーを秘めているということ
・これまでは、権利の存在について無知であったり、軽く考えて罪を犯す人が多かったが、これからは、知的財産権について熟知したうえで、これらの権利に付きまとう曖昧さやグレーな部分を巧妙に突いてくる者が増えてくるだろうということ
です。
コメントをお書きください