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金魚電話ボックスの著作権_控訴審判決

 

 令和3年(2021年)1月14日、大阪高等裁判所は、奈良県大和郡山市の商店街が設置していた電話ボックスを水槽にして金魚を泳がせるオブジェ、いわゆる「金魚電話ボックス」について、福島県の前衛芸術家、山本伸樹さんが20年ほど前に制作した作品の著作権を侵害していると判断し、商店街側に賠償を命ずる判決を出しました。

 

 令和元年(2019年)7月11日の奈良地方裁判所における第1審判決では、山本さんの訴えは退けられていましたが、大阪高裁は、山本さんの作品を「斬新なアイデアを形にして表現したもので、個性が発揮された著作物だ」と認定したうえで、商店街のオブジェについて、「原告の作品に依拠して作られたと推認され、著作権を侵害している」と判断し、商店街側に55万円を支払うよう命じました。

 

 「金魚電話ボックス」事件については、以前のブログで私見を述べておりますが、「電話ボックスを水槽に流用するという着想に至れば、その中に金魚を放つのは、ありふれた行為である。これは、「創作的」な表現というよりも、「思いつき」であり、「アイディア」そのものであろう。著作権法は「アイディア」を保護するものではない。」と記していました。これは、第1審の奈良地裁判決に近い考え方だろうと思います。

 

 電話ボックスに水を満たし、水槽にするという点は、第1審判決、大阪高裁の控訴審判決ともアイディアそのものであり、創作的な表現とは認められないとしています。

 しかし、その水槽に金魚を泳がせるている点は、第1審ではこれもアイディアであるとして創作性を認めませんでしたが、控訴審では斬新なアイディアを表現したものであるとして創作性を認めました。

 

 いわゆる「コンセプチュアル・アート」や、「レディ・メイド」と呼ばれる既製品を使用した芸術作品については、どこまでがアイディアそのもので、どこからが創作的な表現になるのか、その線引きは非常に困難です。

 

 その点で、第1審判決と控訴審判決で判断が分れたということでしょう。