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無知は罪なり

 もう随分前の話ですが、私が以前勤務していた会社で、取扱う商品をブランド化するため、商品名のロゴを有名な書家の先生に書いていただいたことがありました。

 その書体は独特で、大変特徴的でした。

 

 会社では、そのロゴを用いて看板やパンフレットなどを製作し、販促活動に使用しました。

 その際、元々の書体は横書きだったのですが、印刷物への収まりなどを考え、縦書きに直したり、文字の角度を調整したりしていました。

 販促物の使用には私自身も関わりましたが、その当時は著作権法に対する認識は皆無といってよく、何の抵抗もなく元の書体に手が加えられたものを使用していました。

 

 その後、だいぶ時間が経ってから、書家の先生からクレームがあったという話を聞きました。特に大事には至りませんでしたが、書家の先生からすると、自分の書いたものが、思いもよらない使い方をされていることに対して、憤りを感じたのだと思います。著作権法に基づいた主張だったのかどうかまでは判りませんが。

 

 書家の先生に直接依頼したのは会社からだったかもしれませんし、広告代理店だったかもしれません。いずれにせよ、著作権に関する契約書は締結されていなかっただろうと思います。また、書体の使い方については、口頭でも何ら確認はされていなかったのだろうと思います。

 

 今になってみると、たいそう出鱈目なことをしていたものだと、赤面する思いです。差止や、損害賠償にならずに済んで本当に良かったと思います。冷汗ものです。

 

 私は大学の法学部を出ていますが、在学当時、知財法の講義があったかどうか、記憶が定かではありません。特に著作権法については、世間一般ではほとんど意識されることはなく、特定の限られた業界でのみ意識される程度ではなかったかと想像します。

 

 しかし、昨今では、契約書の重要性はもちろん、著作権に対する意識も格段に高まっています。大学でも卒論やレポートで安易にコピペなどしないように、「引用」など、他人の著作物の正当な利用方法について教えているようです。

 

 今でも、著作権に関する契約をきちんと取り交わしていないケースは少なくないと思われますが、後々トラブルになることを回避するためにも、必ず契約書を作成すべきだと思います。