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業務委託契約と著作権(2)_著作権譲渡契約

 業務委託契約書の中には、「制作物に関する著作権は委託者に帰属する」というような規定も見受けられますが、これは非常に曖昧で、リスクの高い書き方だと言わざるを得ません。

 

 著作権(著作者人格権も)は、著作者が何ら方式の履行を要せず原始的に享有するものです(著作権法(以下、「法」といいます。)第17条)。そして、著作者とは創作的表現をする者を指しますから(法2条1項1号、2号)、表現そのものにタッチしていない委託者に、原始的に著作権が帰属することはあり得ません。法17条は強行規定であると解されていますので、このような規定は無効とされる危険があります。

 

 この規定の意味するところが、「制作物に関する著作権は、委託者に移転する」、つまり受託者から委託者に著作権を譲渡するということだとしても、これだけでは不十分です。

 

 法第61条第2項には、「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定されていますから、翻訳・翻案権等(法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(法28条)も併せて譲渡することを明記しておかなければ、委託者は受託者の許諾を得ずに元の著作物をベースとして新たな著作物を創作したり、これを利用したりすることはできません(つまり、譲渡された状態のままでしか使えないということです)。

 

 また、著作者は、著作権と同時に著作者人格権を享有します。著作権が受託者から委託者に譲渡されたとしても、著作者人格権は譲渡できない権利なので委託者に残ったままです(法59条)。委託者は、受託者から著作者人格権として公表権(公表するかしないかを決められる権利)、氏名表示権(著作者である受託者の氏名・名称を表示させたり、表示させなかったりする権利)、同一性保持権(意に反する改変をさせない権利)を行使される可能性があります。

 

 これを回避するため、契約実務では、委託者が、契約で、債権的に、著作者人格権を行使しないことを受託者に約束させることが行われています(著作者人格権不行使特約)。

 

 著作権に限ったことではありませんが、契約に関するリスクを回避するためには、関係法令を理解したうえで、どのような効果を狙うのかを明確に意識して契約書を作成すべきです。