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「見積書」は申込みか、申込みの誘引か

 会社での取引では、業者に見積書を出してもらい、その内容で良ければ注文書を出すということが行われます。注文書に対して業者の方から注文請書が出されることもあります。このような書面のやり取りを経て契約が成立します。この場合、契約の成立という観点では、見積書の提示は申込みに当たる当たるのでしょうか。注文請書は何に当たるのでしょうか。

 

 我が国の民法では、契約は、申込みという意思表示と承諾という意思表示が合致することにより成立するということになっています。 

 2020年施行の新民法では522条で、「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示」を申込みとし、これに対して相手方が承諾したときに契約が成立するとしています。改正前の民法には、申込みについての明確な定義はありませんが、同様の趣旨であると考えられていました。

 

 つまり、書面の名称に関わらず、相手方の承諾がありさえすれば契約が成立することとなる申入れは、民法上の申込みの意思表示に当たるということです。

 見積書を提示して、相手方がその内容を了承して契約が成立した場合、この見積書は申込みに当たります。相手方が、この見積書に基づいて注文書を出せば、それは承諾の意思表示になります。

 

 しかし、見積書は提示されたが、金額や条件が折り合わず、再見積を依頼する場合は、当初の見積書は契約成立の前提とならないため、申込みには該当しないということになるでしょう。このような契約成立の条件を欠く申入れは、「申込みの誘引」です。  

 また、見積書提示後に交渉があり、その結果に基づいて注文書を出せば、それが申込みであり、注文請書は承諾に当たることになるでしょう。

 

 会社対会社の取引では、何度も交渉を重ねて合意に至ることが多いと思います。合意された最終の条件を提示して、「これで良いですか?」とか、「これでお願いします」と相手方に確認するのが申込み、それに対して「それで了承します」と回答するのが承諾となります。それ以前のやり取りは、全て申込みの誘引ということになるでしょう。

 

 もちろん、見積書、注文書、注文請書など、一方当事者から他方当事者への一方的な書面のやり取りではなく、双方署名押印する形式の契約書を作成すれば、契約の成立はより明らかになります。