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契約日付のバックデイト問題

 一般的な文書では、その文書の作成日付を示すものとして、文書の上部や末尾に日付を書きます。

 契約書の日付は、通常、作成日付=締結日付と解されますが、同時に効力発生日の意味も持たせていることがあり、実務的には《 契約書作成日 =契約締結日= 契約の効力発生日 》として日付を記載することが多いのではないでしょうか。

 

 例えば、契約の合意は1月1日に成立し、1月1日から既に履行を始めているが、契約書の作成が遅れ、3月1日に締結したという場合であっても、契約書には締結日付を1月1日と書いておく、とういうようなことです。本当は《 締結日 ≠ 効力発生日 》なのに、辻褄合わせのために《 締結日 = 効力発生日 》としてしまう、ということです。

 

 これが、いわゆる契約書のバックデイトといわれるもので、実務上はごく普通に行われていることです。当事者双方が了解のうえで行っていることなので、当事者間で問題になることはほとんどありませんし、それ自体が違法とは言えません。しかし、度が過ぎると、代表者や会社名、所在地、使用した印鑑が違ったりして、後々辻褄が合わず困ることがあります。また、これによって第三者の利益を害すると、契約自体が無効とされるおそれもありえますし、会計上や税務上の問題を生ずることもあるでしょう。

 

 契約は当事者の意思の合致のみで成立するというのが民法の建前なので、書面の作成や、その書面への署名、記名押印などは成立要件ではありません。ですから、契約が成立してから、後日、契約の成立を証するために契約書を作成するということでも良く、《 締結日 ≠ 効力発生日 》であっても一向に差し支えなく、有効性にも問題はありません。

 それなのに、実際には《 締結日 ≠ 効力発生日 》であるにもかかわらず、《 締結日 = 効力発生日 》としてしまうから、前述のような問題が発生するわけです。

 そのような問題を起こさないようにするために、契約書の締結日付は、それが効力発生日の前でも後でも、実際に締結した日付を記載すべきです。

 

 事前作成の場合は、「本契約は○年○月○日から効力を発生する」というように書いておけば特に問題ありません。実務的にもそのように書くことが多いでしょう。

 事後作成の場合は、遡及効といって、「当事者双方は、本契約は締結日に拘らず○年○月○日から効力を生じていることを確認した」とか、「本契約の効力は、○年○月○日に遡って発生し、○年○月○日まで有効とする」というように、契約条項を過去に遡って適用させる旨を書いておきます。遡及する日には契約はすでに成立しており、それ以降の取引に適用されているという、過去の事実を確認する条項を書いておくということです。

 とはいえ、契約書が作成される前にトラブルが発生したりすると、約束事が明確になっていないために話がこじれる恐れがありますから、極力時間を空けずに作成した方が良いでしょう。

 もちろん、取引を開始する時、履行に着手する時までに、契約書を締結しておくのが、本来のあるべき手順であることは言うまでもありません。

 

 契約書の締結日付が何時になるかというと、厳密には双方の署名又は記名押印が揃った時、ということになるでしょう。

 企業間の契約では契約書を郵送や持ち回りでやり取りして、順番に押印することがほとんどでしょうから、後で押印する側が押印した日が締結日付になります。

 ただ、先に押印する方は、日付の入っていない契約書に押印するのは抵抗があるかもしれません。そうなると、実際の作成日付と多少ずれる程度であれば、双方合意のうえ、先に押印する側で押印する日としたり、別途合意した日付を入れておいたりするのが現実的だと思います。中には、それぞれの押印欄に、個別に押印日付を記入する欄を設けている契約書もあります。