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三者間相殺契約(三角相殺)

1.三者間相殺は、当事者間では何の問題もなく有効に成立する。
2.契約は、三者間で締結すること。
3.契約書には、第三者対抗要件として確定日付を取得しておくこと。

 「相殺」というのは債務の弁済方法のひとつで、民法第505条以下に規定されています(「殺す」なんて、字面は悪い)。

 

 民法第505条には、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。」とあります。

 

 例えば、A社はB社から原料を購入しており、B社はA社から製品を購入している場合、A社はB社に対して原料の代金支払い債務(A債務)を負担しており、B社はA社に対して製品の代金支払い債務(B債務)を負担しています。

 

 原料の代金が100、製品の代金が150だった場合、A社はB社に100支払い、B社はA社に150支払ってもいいのですが、お互いの代金支払い債務を差し引きして、B社がA社に50だけ支払っても同じことになります。この差し引きが「相殺」です。

 相殺を利用すると、決済手続を簡素化できます。上の例では、A社は支払い手続が不要になりますし、B社も50だけ支払う用意をすれば済みます。

 また、相殺には担保としての機能もあります。例えば、A社の財務内容が芳しくない状態であっても、B社は相殺によって難なくA社から100を回収したことになるからです。

 

 では、上の例で、B社が製品を購入する相手がA社の子会社であるC社だったらどうなるでしょうか?この場合、B社は、A社ではなく、C社に対して製品の代金支払い債務(b債務)を負担することになります。B社はb債務とA債務を相殺できるでしょうか?

 

 相殺できるなら、B社は財務内容の良くないA社に対しても安心して原料を販売することができます。しかし、相殺できないとするとB社はA社への販売をためらうでしょう。

 

 これを可能にしようとするのが、三者間相殺契約(三角相殺)です。

 A、B、Cの三者間で相殺しようとするわけですから、民法が想定している「二人が互いに」という要件からは外れています。しかし、当事者間での合意が成立すれば、契約自由の原則からして、強行法規違反とならない限り、少なくとも対内的には有効であるとされています。

 それでは、第三者に対してはどうだでしょうか?何らかの対抗要件を備えておく必要があるでしょうか?三角相殺は、民法に定められている典型契約ではないので、当然のことながらその対抗要件についての定めもありません。

 

 これについては、国税庁のホームページの、税務大学校、研究活動、論叢34号に詳しい論文が掲載されており、大変参考になります。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/34/242/hajimeni.htm

 

 判例は、相殺を行うことの正当性や、第三者の請求と相殺契約ないし相殺予約が行われた時期の前後関係などを斟酌して三角相殺の対外的効力を認めています。判例では特に対抗要件の具備には言及していないようです。

 学説では、債権譲渡や債権質の対抗要件と同様、確定日付のある通知または承諾を要するとするものがあるようです。

 

 以上を勘案すると、実務的な対応としては、三角相殺を行おうとする場合は必ず三者間で契約を締結すること、契約書には確定日付を取得しておくこと、となります。

 

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コメント: 1
  • #1

    ありがとうございます (火曜日, 16 5月 2017 12:54)

    特許事務所に勤務していますが、行政書士を目指して勉強中です。
     相殺の試験にはここまで深くは出ないと思いますが、相殺の理解を深めるために大変参考になりました。ありがとうございます。