· 

業務委託契約は委任か、請負か

1.印紙税法上の委任と請負の区別は、成果物の有無が基準となる
2.印紙税法や基本通達などに挙げられている例示に従う

3.実体的には、委任か請負かの区別より、業務内容に即した権利義務を契約書に具体的に記載しておくことが大事

 比較的使用頻度の高い契約書に「業務委託契約書」があります。

 これは他人の労務を目的とする契約の一種ですが、民法上の請負契約になるのか、委任契約になるのか紛らわしいことが多く、実務的には印紙が必要か不要かで迷うことが間々あります。請負契約は課税文書ですが、委任契約は不課税文書であり、費用面で大きな差が出るからです。

 

 請負契約は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」(民法632条)ものです。仕事の「完成」を求めるものであり、その「結果」に対しては契約不適合責任を負い、報酬請求権が当然発生します。

 委任契約は、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」(民法643条)ものです。受任者は善管注意義務を負いつつ、求められた行為を行いますが、特約がなければ報酬を請求することはできません。

 

 請負契約の典型的な例としては建築請負が挙げられます、自動車などの修理、クリーニングも請負契約です。また、印紙税法上、講演、警備、機械保守、清掃などのような無形的な結果を目的とするものも含まれるほか、公認会計士との監査契約、民間放送会社と広告主又は広告代理業者との間の広告などの契約、職業野球の選手、映画・演劇の俳優、プロボクサー、プロレスラー、音楽家、舞踊家、映画・演劇の監督・演出家・プロデューサー、テレビジョン放送の演技者・演出家・プロデューサーなどが、その者としての役務を提供することを内容とする契約を含む、とされています。

 こうしてみると、印紙税法上、請負に当たる契約は大変多岐にわたることがわかります。

 

 請負と委任を分ける基準として、「成果物」の有無が挙げられることがあります。これだと、例えば、税理士が税務相談に応じるのは委任ですが、決算書や申告書を作成するのは書面としての成果物があるので請負になるとされます。しかし、上記の例では、一般の人には求め得ないような特殊で高度な技能や技術を持つ人の役務の提供は請負とされているので、税理士という専門職能に基づく税務相談も請負と言えなくもないような感じがしてきます。税理士としても、相談に応ずれば当然報酬を請求できると考えているでしょうし、相談された内容を書面で回答すれば、その書面は「成果物」と言えなくもありません。

 

 民法上、受任者には報告義務が課されていますから、報告書の提出と引換えに報酬を支払うことになっていたとしても、報告書を「成果物」と見る必要はなく、委任契約の範囲内と捉えて良いと思います。

 

 ちなみに、印紙税法基本通達の別表第1によると、「税理士委嘱契約書は、委任に関する契約書に該当するから課税文書に当たらないのであるが、税務書類等の作成を目的とし、これに対して一定の金額を支払うことを約した契約書は、第2号文書(請負に関する契約書)に該当するのであるから留意する。」とあり、印紙税法上は「成果物」の有無を基準としているように読めます。

 

 2020年4月1日施行の改正民法では、648条の2で成果報酬型委任について新たな規定を置き、「委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。」としています。この場合、報酬の支払いに関しては請負と同様です。

 

 では、成果報酬型委任と請負との区別の基準はどこに置いたら良いのでしょうか。

 それは、「仕事の完成義務」があるか無いかです。

 弁護士の成功報酬は訴訟で勝った場合に支払われますが、勝つことが義務付けられているわけではありませんから委任の範疇です。成果を出すことと完成義務を負うこととは別です。

 

 税金の賦課は、不公平な取扱いを極力排除しなければならないので、課税されるか課税されないかは、容易に判断できる基準が求められます。民法の規定が基になることは勿論ですが、一方で、判り易さのためにはある程度の割り切りが必要だということだと思います。

 なので、印紙税に関しては、税法等に記載されている具体的な例示に従うほか、「成果物」の有無、「完成義務」有無を基準として判断する、ということになるでしょう。

 

 契約の目的は委任だとしても、請負の要素が含まれていれば印紙税法上は請負と扱わざるを得ません。反対に、印紙が貼ってあるからといって契約の目的が全体として請負であるとは限りません。課税文書に印紙が貼ってないからといって契約が無効になるわけではありません。目的に適った契約書であれば、税金が掛かっても良しとすべきでしょう。

 

 実体的な面では、委任と請負の要素が入り混じった契約内容になることも多いと思われますので、単純に委任か請負かを決め付けるようなことはほとんど意味がなく、民法上の典型契約にピッタリ合うような契約内容になることの方が稀でしょう。ですから、具体的な業務内容に即して、善管注意義務や契約不適合責任、危険負担、契約解除、損害賠償などについて検討し、明確に記載しておく必要があります。

 

 印紙税の要否はお金の問題なので、どうしても気に掛かります。しかし、税金を節約するために契約内容をいじるのは本末転倒です。まずは、適切な契約内容にすることを第一とすべきす。

 

 もっとも、最近では電子契約が普及してきました。電子契約だと書面がないので印紙税はかかりません。電子契約は、デジタル化が進むビジネス環境においては非常に有用性が高いと思います。電子契約を導入すれば、印紙税の心配は不要になります。