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商号と商標

1.会社名(商号)を決めたり、商品に表示したりするときは、他社の登録商標を確認すること

2.自社の商品やサービスに関する登録商標があったら、その登録商標と異なる会社名にしたほうが良い

3.商号が周知商標などと混同する恐れがないか、不正競争防止法上のチェックも必要

4.上記と抵触する恐れがあるときは、商品への会社名の表示は、商品名と明確に区別した方が良い

 個人で商品を製造・販売している人がいましたが、その屋号が全国的に有名なチェーン店の店名と同じでした。その個人事業者はネット販売などで販路を広げたいと考えていますが、商品に屋号を表示しても大丈夫でしょうか?

 

 この問題について、商法や会社法における商号、商標法における商標、不正競争防止法の観点から考察してみたいと思います。

 

 まず、商号について。

 商法は第12条第1項で、「何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。」と定めています。会社法でも同様に、第8条第1項で、「何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。」と定めています。 

そして、個人事業主の場合は任意に、会社の場合は必要的に、商号を登記します。

 会社法施行前の商法では、同一市区町村内で同一事業目的である場合には類似の商号登記を認めないという規制(類似商号規制)がありましたが、会社法成立に伴い廃止されました。同一類似の商号による不正競争については、不正競争防止法で対処すればよいという考え方です。これに対して、現在では、他人が既に登記した商号と同じ商号は、同じ所在場所では登記できない(商業登記法第27条、同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)という制限があります。

 

 次に、商標について。

 商標法では商標登録制度が設けられており、登録された商標には独占的な使用権(商標権)が認められます。第三者が、登録商標と同一または類似の商標を、登録の際に指定された商品やサービスと同一または類似の範囲で使用すると、商標権の侵害となります。

 ただし、「自己の氏名若しくは名称・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」には商標権は及ばないとされています(商標法第26条第1項1号)。しかし、この場合でも、「商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で・・・用いた場合」は、商標権侵害となります。

 

 次に、不正競争防止法。

 第2条第1項第1号で、「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、・・・他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を不正競争と定義し、そのような行為の差止請求や損害賠償について定めています。

 

 今回のケースを調べてみると、有名チェーン店の運営会社の会社名は店名とは全く別のものでした。

 ただし、その店名は複数の商標登録がなされ、登録された商品には個人事業者が扱う商品も一部含まれていました。また、その登録商標は個人事業者が屋号を使い始めるより前に登録されていました。

 

 個人事業者の屋号と有名チェーン店運営会社の商号は異なるので、商号として使う分には問題なさそうです。

 しかし、個人事業者の屋号は有名チェーン店の登録商標と同じなので、屋号の使い方によっては商標権の侵害になる可能性があります。すなわち、「自己の氏名若しくは名称・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」の範囲を超えて(例えば商品名の一部として)、商品に屋号を表示すると商標権侵害になるでしょう。あくまでも製造者や販売者としての表示にとどめ、商品ラベルなどに目立つ方法で表示するのはやめておいた方が良いと思われます。

 不正競争防止法の観点では、やはり周知性のある商標などと「混同を生じさせる」ような表示方法は問題になる可能性があります。

 

 類似商号規制があったときは、登記された商号にも、商標と同様、一定の出所表示機能があり、フリーライド(タダ乗り。他人が築いた信用や信頼を利用して自分の利益を図ること)防止機能があったように思われます。

 しかし、現在では、個人の氏名、住所、生年月日などによる身分証明と同様、所在地や設立年月日と相まって会社の存在証明なり同一性確認をする機能しか認められません。

 昔は一定範囲の地域で類似商号規制をすれば、ある会社の商品やサービスを他の会社のものと混同することはある程度防げたかもしれません。しかし、インターネット時代では地域の垣根は無いも同然なので、商号にその役割を持たせることは無理があります。

 商号を商標としても使おうと思えば、商号を商標登録して商標権を得るしかありません。そうでなければ、商標法や不正競争防止法に触れないように、限定的な使い方にするほかないでしょう。